排尿困難、尿閉など病院治療後の漢方療法について

   

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排尿困難、尿閉など病院治療後の漢方療法について

昔、救急病院(今で言う救命センター)に勤務していた時代がありました。主に注射剤、血液製剤等を担当していました。昼夜交代制のハードワークでしたね。ハードワークと言っても、さすがにオペ室看護師さんの激務には及びませんが、経験論で申すなら、この世界、基本的には体力が無いと続けられないです。私は優秀な薬剤師ではありませんが、当時、体力と健康にだけは自信があったため、辛うじて長期勤務を継続できたと思うのです。

救急対応は、交通事故をはじめとする外傷、火事による火傷(やけど)、脳卒中など脳外領域、心疾患などの循環器障害、呼吸器、産婦人科など広範囲に渡る。急性腎不全、劇症肝炎、感染症各種、突発的な小児の疾患、食中毒、薬剤服用による自殺未遂や、急性アルコール中毒症、など・・・中には、耳の奥に虫が入って暴れてるとか、大型犬に咬まれた、お餅がつかえて苦しんでいるとか・・ここに書ききれないほどの事例(ケース)やインシデントがあります。事件、事故、疫病など・・まさに生の人間社会の縮図とも思え、これら多くのトラブルに淡々と手際よく対応している24時間・医療スタッフや、搬送して来る救急隊員さんは本当に大変であると実感しました。

従って勤務時にはさまざまな症例に遭遇していますが、意外と多く、私の記憶に残っているのが「尿閉(にょうへい)」という怖い症状です。
男女共通の疾病ですが、男性の方が圧倒的に多いと思いました。そして前立腺肥大症から起因する症例が大半を占めました。

前立腺肥大症についての漢方療法についてはこちら
http://www.protan2.com/archives/21799

わかりやすく言うと、「ずばり、おしっこがしたくても、一滴も全く出ない」という状況を言います。まるで拷問のような状況かも知れません。おしっこがしたいつらさと、おなかが張る痛みで、とても苦しい症状に陥ります。ややもすると、当人にとって勤務中は恥ずかしく周囲に気遣うため、かなり悪化した状態で搬送が大半を占めます。 あと、職業運転手の方々も多かったと思います。

【尿閉とは】

下部尿路(膀胱、前立腺、尿道)の閉塞。または神経疾患や薬剤による膀胱の排尿筋収縮障害などが原因で、膀胱にたまった尿を排尿できない状態を言います。

尿閉には急性尿閉と慢性尿閉があります。

急性尿閉 下腹部の膨隆と強い尿意、疼痛を伴うことが多く、排尿の意志があるにもかかわらず、急激に排尿困難な状態に陥ることを言います。
慢性尿閉 苦痛は目立たずに排尿は辛うじて可能ですが、尿意が鈍麻していることが多く、残尿が徐々に増加し膀胱が過伸展の状態となり、膀胱容量以上の尿が失禁(しっきん)として認められる状況をさします。

【尿閉の原因】

男性 前立腺肥大症が進行中の方の「飲酒」。前立腺肥大症の患者に、「まずは、断酒から」と私が一番に叫んでいる理由です。

ところが、前立腺肥大症は「男の冷え」。だから酒で体を温めるのも一理あると某医師や某薬剤師から言われた・・という患者さんがいるのも事実。
又は、古代中国人は八味丸と酒を一緒に飲むと良いと書籍で読んだとして・・晩酌と漢方は俺の体に合うから、やめない。・・という方がいるのも事実。
まぁ、そこまで言われるならば何も私は申しません。飲酒と喫煙は個人責任で願います。

ただ留置カテーテルを長期体験されれば、その辛さが自ずと心底認識され、過去痛い思いをした経験者である私の拙論もご理解する日がいつかは来るでしょう。
過度な飲酒は患部が充血をきたし、尿路閉塞が突如として起こる確率が高まります。(何日かの留置カテーテルで対応)

男女共通 薬剤の副作用により尿閉をきたす事例が近年多い。(カテーテルで対応)

市販薬(一般用医薬品):「抗コリン剤」含有の製剤※
病院薬(医療用医薬品):睡眠薬、抗不安薬、抗うつ薬、SSRI※、パーキンソン病治療薬、抗不整脈薬、等の一部

※抗コリン剤とは
副交感神経の働きを抑制する薬剤(例、市販の総合感冒薬、鼻炎薬、鎮痙胃腸薬等に一部含有されている)

※SSRIとは
セロトニン再取込み阻害剤のことをいう。抗うつ薬の一種。2009年5月現在、日本国内で100万人以上が使用していると推定。

●男女共通 風邪などのウイルスが背中の神経に入って、膀胱が麻痺してしまうことが稀にあります。(何日かの留置カテーテルで対応)

【診断】

●尿閉の大半は是正可能であり、その一方で治療が遅れると腎臓組織の回復不能な損傷につながることから、早期の診断が重要です。

●腹部エコーにより膀胱の尿の貯留を確認します。
明確な基準は特にありませんが、腹部エコーでの推定膀胱尿貯留量において、排尿後の残尿が200~300mL以上または排尿がない状態で400mL以上の場合は尿閉と考えられます。

●腹部超音波検査では両側水腎症の有無なども検索します。

水腎症
水腎症とは、満杯になった尿によって腎臓が拡張してしまった状態のことで、尿路の閉塞により腎臓に対して圧力が加わることで発生します。
水腎症が急速に発生(急性水腎症)すると、ほとんどの場合、わき腹から腰部、下腹部にかけて激しい痛み(腎仙痛と呼ばれる激痛)が生じます。

●触診,CT,MRI,尿道内視鏡も原因の精査および治療方針を考えるうえで有用です。

【治療】

導尿※による尿閉の解除を行います。

※導尿とは
カテーテルを尿道の中に挿入して人工的に排尿させること。
自然の排尿が十分に行われないとき、検査のために滅菌尿を採取するとき、自然排尿によって創傷が汚染されるときなどに行われます。

※カテーテルとは
カテーテルとは、医療用に用いられる中空の柔らかい管のことです。
胸腔や腹腔などの体腔、消化管や尿管などの管腔部または血管などに挿入し、体液の排出、薬液や造影剤などの注入点滴に用いる。
用途により太さや材質は様々ですね。

※膀胱留置カテーテルとは
膀胱から直接導尿させるために、尿道から膀胱に挿入し、短期留置するカテーテルのことです。(長期留置はなるべく避けます。)
一回の排尿でしか使用されない尿道カテーテルとは違い、挿入したカテーテル先端のバルーンを膨らませて固定します。
前立腺肥大や脊髄障害、寝たきりの患者をはじめ、全身麻酔手術の際など、自然排尿が困難な場合に用いられる。
留置期間が長いと、尿路感染の危険が高まり、膀胱の拡張・収縮機能が弱まるため、注意が必要です。

●頻回の導尿または両側水腎症による腎後性腎不全を伴う場合は、尿道カテーテルを留置します。
(但し、高齢者では導尿により、急速に尿閉を解除すると、迷走神経反射で失神、心停止をきたすことがあり注意が必要です。)

●尿道からのカテーテル挿入が困難な場合は、膀胱瘻を造設します。(外科処置)
炎症による下部尿路閉塞のこともあるため、その場合は抗菌剤の投与も行います。

●病院における薬物療法

◎尿閉を伴う前立腺肥大症には以下のいずれかの組み合わせが多いかと思いました。


ユリーフ錠(4mg) 1回1錠 1日2回
エビプロスタット配合錠DB 1回1錠 1日3回


ユリーフ錠(4mg) 1回1錠 1日2回
プロスタール錠(25mg) 1回1錠 1日2回


ユリーフ錠(4mg) 1回1錠 1日2回
アボルブカプセル(0.5mg) 1回1カプセル 1日1回

【排尿困難時の漢方療法のはじめ方】

急性的な尿閉は、即時に病院で専門医師の診断と治療が最優先されます。

トイレに行っても「いきんでも全然でない」ケースでは、その原因が前述したようにいろいろと病理学的背景や現在の薬の副作用から由来することもありますので、
早めの精密検査と同時にカテーテルによる導尿と合わせて実施する必要があります。

とりあえず、排尿し危機を脱してから、例えば前立腺肥大症の進行によるものであれば、今回の導尿だけではなく、留置カテーテル実施して様子を見るという方策もあります。
又は病院からの薬物療法なども受けて、ある程度排尿のリズムの回復がみられてから、将来の再発や慢性尿閉に陥らないためにも漢方療法を開始するという形が良いと思います。

【排尿障害・排尿困難時に推奨する漢方薬】

※ご注意
◎あくまでも、当店で多く出ている漢方処方を2つご紹介しておきます。
当処方に限らず排尿障害・排尿困難時に使用できる漢方処方はまだ多くあります。(例、五淋散、竜胆瀉肝湯など)

排尿障害・排尿困難時に使用される漢方薬を、具体的に挙げていきましょう。
まず膀胱炎様症状への漢方薬で有名なのが、猪苓湯 (ちょれいとう)及び清心蓮子飲(せいしんれんしいん)です。

猪苓湯 (ちょれいとう)は、残尿感、尿量の減少や、尿がでにくいといった、細菌性・非細菌性、いずれの膀胱炎にもよく効く漢方処方として著名です。(結石由来の尿路疾患にも有効)
清心蓮子飲(せいしんれんしいん)は、上記の膀胱炎様症状でかつ心因的な面が強く加わっている場合に良く効きます。
つまり精神的に不安定で神経質な人で、トイレに入っても全く出ない、また出なかったらどうしよう。。と悩まれる方。特に胃腸の弱い体質の方に推奨できます。

■猪苓湯 (ちょれいとう)構成生薬:5味

猪苓・茯苓・沢瀉・阿膠・滑石

猪苓湯は、漢方の古典「傷寒論(しょうかんろん)」、「金匱要略(きんきようりゃく)」に収載されている薬方で、利水滲湿剤です。
特徴としては残尿感、尿量の減少や、尿がでにくいなどの症状に効果があるとされます。
また、膀胱炎症状のみならず、浮腫、下痢を緩解し、滋養強壮作用をも有します。

(猪苓湯の特徴:利水清熱・滋陰止血)※下焦において熱邪と水湿が結びついた病症。

・茯苓・猪苓・沢瀉・滑石は、組織中や消化管内の水分を血中に吸収して、利尿により排除します。
・浮腫、下痢を緩解し、尿量を増して尿を稀釈し尿路刺激をやわらげます。
・猪苓・沢潟・滑石は、軽度の抗菌、消炎作用があります(清熱)。
・阿膠は、滋養強壮作用により体を滋潤、栄養し、止血に働きます。

※当店で取り扱っている「猪苓湯」の漢方製剤
こちら

■清心蓮子飲 (せいしんれんしいん) 構成生薬:9味

清心蓮子飲は、漢方の古典「和剤局方(わざいきょくほう)」に収載されている薬方です。

胃腸が弱い方のストレスなどによる膀胱炎様症状によく効きます。
神経質の傾向があり、とりこし苦労が多い方によく使用されます。
ストレスや緊張によって生じる排尿のトラブル
気陰両虚・心火旺

(清心蓮子飲の使用目標)

・頻繁に尿意を催す
・尿が出しぶる
・排尿痛がある
・排尿時に力がなく残尿感がある
・疲れると尿が混濁する

(清心蓮子飲の特徴:気陰両虚・心火旺)
清心蓮子飲は、気虚(元気がない、機能低下など)・陰虚(体に潤いがない)に伴う虚熱(イライラ、煩躁など)の状態に使われる処方です。
したがって、清熱薬(熱を冷ます)、滋陰薬(体を潤す)、利水薬(水をさばく)、補気健脾薬(気を補い、胃腸を整える)などで構成されています。

蓮肉には清心益腎作用(心の熱を冷まし、腎を補う)があります。
麦門冬には滋陰作用(体を潤す)があります。
黄今は上焦の熱を冷まし、地骨皮は虚熱を冷ます働きがあります。
茯苓と車前子の利水作用により尿の病変を改善します。
人参、黄耆、甘草は気虚による倦怠感や機能低下の症状を改善します。
蓮肉、茯苓には安神作用があるので神経性の尿のトラブルを改善する働きがあります。

※当店で取り扱っている「清心蓮子飲」の漢方製剤こちら

清心蓮子飲は、四君子湯をもとにして組み立てられた方剤であり、平素より胃腸が弱く、地黄剤を用いると、食欲がなくなったり、下痢傾向になるなど、胃腸にさわる場合に用いるとよいとされます。

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